ART WORKS

MYTHOS

ミュトス

MYTHOS

Nizayama Forest Art Museum
Kenji Yanobe & Ultra Factory


2010


発電所美術館
ヤノベケンジ×ウルトラファクトリー

発電所跡地を「廃墟」から「未来」へと繋がる「物語が生まれる場」として捉え、現地制作と展覧会を繰り返すダイナミックなインスタレーション&プロジェクト。
「MYTHOS(ミュトス)」とは、ギリシャ語の「神話」を意味し、物語の進行とともに会期を4章に分け、電光・流水・虹による新たな「天地創造の物語」を出現させてゆく。


2010年

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【序章】
MYTHOS

闇の中、水球を抱いた龍がおぼろげに"ある物語"を投影している。辺りは静寂に包まれ、鉄骨やコンクリートの瓦礫が散在し、埃と塵で空気は乾き、閑散とした廃墟である。点在する光の粒を追ってゆくと、シールドをかぶった《ランプ猫》たちが、その眼で暗がりを照らし出し彷徨っている。導水管の奥には、明滅する小さな太陽を手にした《ぬすっとマウス》。
水球を抱いた龍《幻燈夜会―有隣荘》が映し出すのは、2010年春に終成された「トらやんの大冒険」の物語である。1997年《アトムスーツ》を着たヤノベがチェルノブイリの荒廃した保育園で拾い上げた《人形》には魂が宿り、やがて歩き出し《トらやん》となって大阪の地に降り立ち、《ラッキードラゴン》(第五福竜丸)をも水の上をゆく船として再生させていったという、世紀をまたいで現実に起こったまさに夢のようなアートプロジェクトのストーリーである。
ギリシャ語で「物語・神話」を意味する『MYTHOS』と名付けられた本展で、ヤノべは自らの力では制御不能な自然現象の数々を取り入れ、創造を超えた先にある世界、超現実とも言うべき次元へと踏み出した。
ヤノべケンジの誇大妄想的な世界観は、常に「未来の廃墟」から始まってゆく。

MYTHOS

[出展作品]
アトムスーツ:1997 175×75×60cm ガイガーカウンター、PVC、ストロボライト、他
人形 トらやん:2010 30×14×14cm プラスティック
人形 チェルノブイリ:2010 20×16×16cm プラスティック
幻燈夜会:2010 150×83×84cm アルミニウム、鉄、真鍮、FRP、他

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【第1章】放電
MYTHOS

誕生とは、壮絶であるが故に美しい。『MYTHOS』第1章は、鮮烈な光の柱が立ち上り、空気を切り裂く轟音が響き渡る「放電」により始まった。
水に覆われた廃墟の中心に聳え立つのは人工の稲妻発生装置・テスラコイルである。その真上には突起上のトゲを持つ《黒い太陽》と、呼吸するようにゆっくりと明暗を繰り返し、かつての「トらやんの大冒険」が透かし彫りにされた《亀ランプ》が浮かぶ。
ヤノベによる放電現象の作品化は《ウルトラ―黒い太陽》(2009)に続き、今回で2作目となる。また、初の構想はヴェネツィア・ビエンナーレ・日本館のために描いたものの実現しなかった幻のプランドローイング(2009)に見られて興味深い。
過去の物語は影絵の幻影と化し、天地をつなぐ稲妻を誘引して浮揚する《黒い太陽》は一貫して謎めいた存在である。怪しげに漂うスモークが発せられ、あたかも雲間から稲妻が落ちてくる。創世記の第一章を想起させるかのような光景だが、それ以上に、天地が逆転した壮大な創造の風景の縮図が空間を凌駕し広がりを見せる。
「放電」は、役目を終えた発電所跡の建物をも蘇らせる錯覚すら感じさせ、果てしない「再生」と生命誕生のエネルギーに満ちている。

MYTHOS

[出展作品]
亀ランプ(黒い太陽):2007 150×160×220cm 鉄、錫、ガラス、ハロゲン球、他
テスラコイル:2008 230×66×66cm タングステン、銅線、アルミニウム、他
黒い太陽ドローイング:2008 9点 紙に水彩

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【第2章】大洪水
MYTHOS

突然、街はいっぺんに消えた。人間の感覚や思考ではとらえられないほどの速さで…。黒部川扇状地の豊かな地下水を啜り呑み込むかのような巨大な口をもつ鉄製の水瓶が天井にぶら下がり、『MYTHOS』第2章は、幕をあけた。
瓦礫の上に横たわる《トらやん》人形が着る《アトムスーツ》、そのガイガー・カウンター数値が「0」を示した時、ラッパの音が鳴り響き、水瓶の口は開かれた。9mの高さから5tもの水が一気に吐き出され、地上に砕け落ちる「大洪水」。膨大な水が押し寄せた街は怒涛の水飛沫のうちに壊滅し、見る者の胸の中までもがすべて無に覆われた。
目に見えずアトランダムに降り注ぐ放射線の未知なる合図によって、「大洪水」は終わりを告げず、再開される。まるで人間の生活を見下ろす巨人の眼から流れ出る涙のように、あるいは抱えた水瓶をひっくり返し、とめどもなくこの地に湧き出る豊穣の水をたたえるかのように。
天啓のごとく舞い降りる水は、何も無くなった大地に浸みわたり、新たな現実を生むエネルギーを与え続ける。現代社会におけるサヴァイヴァル、そして核をテーマに作品をつくり続けてきたヤノベが捉えた真理のリズムにしたがって、風景は広大に、同時に矮小となる。

MYTHOS
MYTHOS

[出展作品]
インスタレーション 大洪水:2010 920×1200×1900 鉄、水、瓦礫、チェーンブロック、他
人形 トらやん:2010 30×14×14cm プラスティック

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【第3章】虹のふもとに
MYTHOS

無限のように思われた「大洪水」、その背後に小さな虹が現れた。大きなユリの花のように開いた《虹のふもとに》の下、瓦礫の山には相似形のランプが掲げられている。天と地の間、堅固でゆるぎない光の弧を描いて人工虹がふわりと浮かびあがった。
さらにその麓では、脱ぎすてられた《アトムスーツ》と、チェルノブイリの保育園で拾い上げた《人形》、また《ランプ猫》たちが残されている。そこから見上げた人工虹は、ランプの小さな灯火を包み囲う、色彩プリズムが織りなす美しき楕円の暈となる。
屋外には、太陽に向かって大砲のように水を発射し、虹をつくりだして観察する装置《Catcher between the Sun》、リヤカーの中に入り込み、円形の虹を見ながら移動可能な《GO WEST!》。ウルトラファクトリー・白石晃一による2つの作品も加わった。
「放電」、「大洪水」を経て、世界のさまざまな神話像とも混ざり深まって、「虹のふもと」はこの地にゆっくりと生まれてきた。それは大いなる自然から授かった創造のしるしであり、あらゆる人々を結ぶ絆のようなものである。
そして、『MYTHOS』の廃虚と赤いカーテンの向こうに隠された未来。大きな太陽に照らされた世界の中に、真実の楽園があることを、その《人形》は知っている。

MYTHOS

[出展作品]
インスタレーション 大洪水:2010 920×1200×1900 鉄、水、瓦礫、チェーンブロック、他
インスタレーション 虹のふもとに:2010 560×500×800 アルミニウム、鉄、虹ビーズ、樹脂、瓦礫、ハロゲン球、他
人形 チェルノブイリ:2010 20×16×16cm プラスティック