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SEED OF LIFE / 生命の実 (2020)

【Limited Online Exhibition】
Seed of Life (5'02" / 3D movie) 2020 / Video work: Hirokazu Ohno

【KYOTO STEAM -世界文化交流祭-】
STEAM THINKING-未来を創るアート京都からの挑戦 アート×サイエンスGIG(2019年度) (5'00")

Seed of Life

The origin of beauty crossing the micro and macro | ミクロとマクロを往還する美の根源

Seed of Life

40億年前 原始の地球の大気の中から
雷や紫外線のはたらきにより
最初の<いのち>がうまれた
いのちはふえつづけ
かぎりなく多様な<いきもの>をうみ出して行く

雷鳴と稲妻が“もの”から“いのち”の誕生をつげる<雷光の空間>を通って<いのち>の空間に入る。
<いのち>の空間は、生命の不思議な構造を通して、“もの”から“いのち”へ、
そして生まれたいのちが、よりよく生きようとする感動的な姿を示している。


(『日本万国博覧会テーマ館ガイド』日本万国博覧会協会、1970年より)

Seed of Life

本作は、ヤノベケンジと大野裕和、フェオダリアや放散虫などの単細胞動物プランクトンの研究開発を行う企業・株式会社SeedBank、仲村康秀(国立科学博物館)、木元克典(海洋開発研究機構)との協同制作によるインスタレーションです。
 本作では、「生命の実」をテーマに、原生生物の「いのちのかたち」の似姿を巨大化するとともに、ヴァーチャル・リアリティ(VR)映像によって、海中のミクロな世界を現出させます。鑑賞者はそこにダイブして「いのちの源」をたどります。

岡本太郎が制作した《太陽の塔》は、自身がプロデューサーを務めた大阪万博のテーマ館の一部であり、現在まで保存されていることはよく知られています。2018年には、 塔内に内蔵されていた「生命の樹」が再生され、48年ぶりに公開されるようになりました。 その他に、地下展示、空中展示がありましたが、大阪万博閉幕後、地下展示は閉鎖され、空中展示も「大屋根」の解体とともになくなっています。地下展示の一部は、「生命の樹」の再生に合わせて、再制作されています。 失われた地下展示には、「いのち」「ひと」「いのり」という3つの展示空間がありました。そこから「生命の樹」に繋がっていました。その最初の展示空間である「いのち」は、 生命の誕生をテーマにしていました。なかでも正面に巨大な多面体スクリーン「生命のうた」があり、ドーム状の構造体に、35面の球形スクリーンが取り付けられ、あらゆる「いのちの誕生」が映し出されていました。

Seed of Life

「いのちの誕生」とは、無機物から有機物、無生物質から生物が、さまざまな出会いによって発生することです。人間が生きている環境は、無機物と有機物のダイナミックな 「うねり」の中にあるといってよいでしょう。
 「原始の生物」とも言える、放散虫やフェオダリアなどの原生生物の構造体を拡大すると、きわめて複雑で美しい立体構造をしていることがわかります。そのような立体構造は、生命体をつかさどるために必要な機能としてあると思いますが、それを「美しい」と感じるのは、我々の本能が生物のルーツをそこに見るからかもしれません。

Seed of Life

放散虫は約5億年前のカンブリア紀から存在しています。そのガラス質(二酸化ケイ素)の頑丈な骨格は微化石として地層中に大量に保存されており、地質年代の決定や 古環境の推定に役立っています。放散虫やフェオダリアの骨格は、長い時間をかけて美しく複雑に進化してゆき、ドイツの生物学者、進化学者であるエルンスト・ヘッケルは、それらの骨格の立体構造を観察して美しいスケッチを描きました。
 単純な形をつなぎ合わせて複雑になっているその構造について、思想家・建築家のバックミンスター・フラーは自身の建築との類似性を指摘しています。バックミンスター・フラーが 1947 年に発明し、1964年にモントリオール万博のアメリカ館で巨大化させたジオデシック・ドーム(フラードーム)やそれを参照した今日のドーム建築は、まさに、巨大な放散虫やフェアダリアといってよいでしょう。

Seed of Life

ヤノベケンジは、大阪万博会場跡地を幼少期の遊び場とし、未来都市の廃墟、すなわち「未来の廃墟」の後に創造すること、混迷する現代社会を「サヴァイヴァル」することをテーマにしてきました。ヤノベが1990年代から活動を始めた当初は、世界の崩壊はまだまだ創作物の中が主流でしたが、今やそれは現実のものとして我々の前に立ち現れています。
 2009年、ヤノベは《ウルトラー黒い太陽》という作品において、フライアイ・ドーム(フラードームの1つ)に円錐状の突起物を付け、分子の世界を象徴的に表しました。また、ドーム内部には巨大なテスラコイル(共振変圧器)を設置し、第四の物質といわれる稲妻(プラズマ)による彫刻を試みました。SeedBank取締役社長・石井健一郎は、ヤノベのドームをプランクトンである珪藻の一種Leptocylindrus danicusと類似していると指摘しています。

ヤノベの《ウルトラー黒い太陽》の名称は、《太陽の塔》が持つ4つの顔の1つ「黒い太陽」に由来しており、背面に描かれた陶板による太陽の図像を指します。《太陽の塔》の右腕部分から続く空中展示には、「転換の壁」や「矛盾の壁」があり、そこには原子爆弾の写真などがコラージュされており、人類が作り出した新たなエネルギーやそれらが社会や環境に及ぼす影響が示唆されています。本作は、《ウルトラー黒い太陽》に使用したヤノベのドームを元に、「雷鳴と稲妻」の後に発生した「いのち」と同時に、人間の持った力の危うさを表現しています。

Seed of Life
Seed of Life

VRの映像の中に登場する、放散虫やフェオダリアは単細胞動物プランクトンの仲間であり、アメーバ状の体と合わせても3mm以下でとても小さいものです。体が1つの細胞できており、その中には DNA(遺伝情報)がつまった「細胞核」があります。「プランクトン(浮遊生物)」は、水中を漂って生きている(水流に逆らって泳げない、遊泳能力が乏しい) 生物の総称であり、地球上で最初の生命もプランクトンだったと言われています。また、海洋生物の餌として、海の生態系や私たちが普段食べている食卓の魚を支えています。つまり放散虫やフェオダリアなどのプランクトンは、海の「いのちの源」といえるでしょう。

しかし、放散虫やフェアダリアのようなプランクトンは、人間の活動によって、分布の変化、種多様性の減少などの悪影響を受けています。近年提唱されている「人新世(アントロポセン)」は、人類による新たな地質年代で、そこには50年代から急速化する放射性物質やプラスティック、コンクリートなどの人間が生み出した化学物質の層が誕生していると指摘されています。地層とは、まさに「地球のレコード」と言えるでしょう。そこに人間の活動が刻まれると同時に、それに伴う自然環境の変化も刻まれていくでしょう。人類の活動が今後も記録されるかは、いまをどう「生きる」かにかかっているのかもしれません。我々はどのような活動を刻んでいくべきか再考する時代に突入しています。

本プロジェクトは、アーティストと科学者が連携することで、ミクロとマクロ、無機物と有機物の両方に見出すことができる、生命の構造、「いのちのかたち」と「いのちの源」を表現することを目指しています。そして、人類が大きく変えている無機物と有機物、生物と環境の循環構造について、鑑賞者が思いをめぐらすことを試みます。 

Seed of Life
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Seed of Life

Notes:
Text: 「SEED OF LIFE」展示解説全文
Exhibition:「STEAM THINKING-未来を創るアート京都からの挑戦 アート×サイエンスGIG」
     (会場:京都市京セラ美術館 本館 南回廊2階 *展示公開は内覧会のみ)

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Courtesy of Kyoto University of Arts
Photo: Kenryou GU and KYAP