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    パパ・タラフマラ [2008]

    演じる舞台美術

    2008年6月に立体専門工房及び学科横断的な教育機関としてスタートしたウルトラファクトリーのディレクターに就任したヤノベケンジは、学生が第一線で活躍するアーティストやクリエイターのプロジェクトに参加することがもっとも教育的な効果があるとしてウルトラプロジェクトを立ち上げた。

    その時ヤノベは、パパ・タラフマラの大規模な新作公演において、自身初の舞台美術を手掛けることが既に決まっていた。パパ・タラフマラは1982 年、小池博史を中心に結成され、演劇、ダンス、ミュージカル、マイムを換骨奪胎し、音楽、美術、映像などさまざまな異分野を貪欲に取り込んで斬新な舞台芸術を構築するパフォーミング・アーツ集団として国際的に高い評価を得ていた。

    小池は『ガリバー旅行記』(1726)の著者である18 世紀の作家、ジョナサン・スウィフトをモデルにした舞台作品を長年構想していたが実現には至っていなかった。小池はヤノベの展覧会を見て文明社会の矛盾をユーモアとアイロニーを込めた物語にして表現するスウィフトとの共通性を見出した。そして、ヤノベに舞台美術を委嘱することで構想の実現を決断した。

    ヤノベは、領域横断的な舞台芸術を行うパパ・タラフマラの舞台美術を最初のウルトラプロジェクトにすることで、同じく領域横断的なウルトラファクトリーのポテンシャルを最大限に引き出すことが可能だと考えた。ヤノベと小池の創作プロセスは対話のみに留まらなかった。ヤノベは学生とともに身体表現のワークショップに参加するなどしながら、小池の舞台芸術の作り方を吸収しつつ具体的な構想を固めていった。小池もまたヤノベから提出されるスケッチや日々制作されていく舞台美術を演出の中に取り込んでいく創造的なコラボレーションとなった。

    ヤノベは、舞台という物語が繰り広げられる空間の中で、パフォーマーの優れた身体能力に耐えうる実機能を果たすとともに、物語の一部として成立しなければならないという課題に応えるべく、《猫人形》、《幼児人形》、《巨大幼児人形》、《高級解体娼婦》、《スーツマン》、《球体カプセル》というキャラクター性の高い個性的な舞台美術作品にしていった。それは、ヤノベ作品であると同時に、異世界のものが入り込んだ交配種のような作品群である。そして、パフォーマーと舞台美術が融合したり分離したりしながら、時に舞台装置、時に存在感のあるキャラクターとして異彩を放つことになった。

    さらに、インドネシアやアイルランドのダンサー、エレクトーンやガムラン奏者、仮面、オブジェ、衣装などの異文化、異分野が交じり合った。それらはガリバー=ジョナサン・スウィフトの築いた空想世界を時空、次元、ジャンルを超えて大胆にアレンジしたハイブリットな舞台芸術作品「ガリバー&スウィフト~作家ジョナサン・スウィフトの猫・料理法~」となって結実する。

    また、ウルトラファクトリーではワークインプログレスとして制作過程を公開し、リハーサル公演を京都芸術劇場・春秋座(京都造形芸術大学内)で行った。それは現実を美術を通じて物語にするヤノベと、物語を舞台を通じて現実にする小池がクロスオーバーする瞬間でもあった。そして、学生とともに約4カ月かけて制作された大量の作品制作の経験は、ウルトラファクトリーのプロジェクト運営の基礎となった。

    ※パパ・タラフマラは2012 年6 月、『パパ・タラフマラの白雪姫』を最後に30 年

    間の活動を終了し解散した。

    プロジェクト期間:2008 年6 月– 9 月/ 2009 年12 月–2010 年1 月

    プロジェクトチームメンバー:東静、一ノ瀬美和子、上嶋桃子、岡本典子、小林直人、崔順玉、杉本有理、世古真倫、畳谷哲也、田原八重香、中家寿之、仲宗根厚、藤田春香、松嶋智子、毛利千尋、吉田睦