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    トらやんの方舟計画 [2011]

    明日への航海

    2010年、福島県立美術館で開催された「胸騒ぎの夏休み」展に、ヤノベケンジは《ラッキードラゴン》と《トらやん》のインスタレーションなどを展示した。福島県立美術館には、ビキニ沖環礁での米軍の水爆実験で被爆した遠洋マグロ漁船「第五福竜丸」をモチーフにしたベン・シャーンの《ラッキー・ドラゴン》の連作のコレクションがある。そのため同じく「第五福竜丸」をモチーフにしたヤノベの作品の展示構成にベン・シャーンの作品を組み込んだ展示が行われた。その中に、《ラッキードラゴン構想模型》が含まれていた。

    《ラッキードラゴン構想模型》は、「水都大阪2009」の際に制作された。実際には具象的な龍の形状が採用されたが、構想模型は「第五福竜丸」の形状に近いものであった。また、絵本『トらやんの大冒険』の中にも、「第五福竜丸」の形状を連想させるワンシーンがある。『トらやんの大冒険』では、氷が溶けて大洪水になり、沈みゆく陸地から脱出するためにトらやんたちが力を合わせて船を建造し航海の旅に出る。それは旧約聖書の創世記にあるノアの箱舟の章を彷彿とさせるものである。「サヴァイヴァル」をテーマにしたヤノベの90年代のシェルターを想定した作品群にもノアの箱舟は意識されているが、「第五福竜丸」との出会いによりノアの箱舟を強く重ね合わせるようになる。

    《ラッキードラゴン構想模型》は2011 年4月、東日本大震災後に再オープンした福島県立美術館の常設展の展示室で特別展示される。そして同館スタッフの提案により、全国から人形やぬいぐるみを募り、箱舟と見立てた《ラッキードラゴン構想模型》に乗せる「トらやんの方舟計画」が始まった。その後、2011 年8月には、美術館独自の試みとして、放射線量の少ない美術館内を子どもたちの遊び場として開放するワークショップやイベント「遊VIVA!」が行われた。その一環として「トらやんの空飛ぶ箱舟大作戦」が企画された

    「トらやんの空飛ぶ箱舟大作戦」は、『トらやんの方舟計画』の集大成として全国から集まった180 個もの人形とぬいぐるみを黄色いバルーンで浮かび上がらせるワークショップとなった。天井が高く日が差し込む美術館のホールに、子どもの分身である人形とぬいぐるみは次々に浮かび上がった。子どもたちのはしゃぐ声が響き渡り、光に照らされた大量の黄色いバルーンとともに美術館は祝祭性を帯び希望の溢れるワークショップとなった。

    そこには子ども用のシェルター型映画館《森の映画館》を巨大化させた「森の美術館」の意味合いも込められている。この時期、ヤノベは《サン・チャイルド》の制作の直中にいた。そして、京都から《サン・チャイルド構想模型》を運び《ラッキードラゴン構想模型》の船首に乗せて復興の願いを込めている。

    その後、《トらやんの空飛ぶ箱舟大作戦》は2012 年、インスタレーション作品として、水戸芸術館で開催された「3.11とアーティスト:進行形の記録」展においても展示される。また、ヤノベは2012年、第五福竜丸展示館で開催された「第五福竜丸からラッキードラゴンへ」展において、屋外展示された《サン・チャイルド》と同時に、実際の「第五福竜丸」に《トらやん》などを乗せるインスタレーションを行った。さらに「瀬戸内国際芸術祭2013」に合わせて、神戸と小豆島を結ぶ連絡船ジャンボフェリーの甲板にオリーブの葉を持った《ジャンボ・トらやん》(2013)を展示した。それはオリーブの木で有名な小豆島をノアの箱舟が到達した希望の島(旧約聖書では洪水後に到達した山の頂上)へと読み替える試みである。ヤノベの「箱舟」は空想と現実を超えて増殖、拡大を続けている。

    Lucky Dragon Concept Maquettes
    • Lucky Dragon Concept Maquettes
    • ラッキー・ドラゴン構想模型
    • 制作年 2009年
    • 素材 アルミニウム、鉄、真鍮、FRP、他
    • サイズ 185×110×290cm
    • 所蔵 福島県立美術館(寄託)

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