(1/2) ザ・スター・アンガー [2012-2013]
鏡が照らす怒りの光
「NAMURA ART MEETING ’ 04 –’ 34」は、千島土地株式会社が保有する名村造船所跡地(大阪市住之江区)において、2004 年から2034 年までの30 年間にかけて、アートに関するさまざまなイベントを行い、場を変容させていくという日本には極めて珍しい長期的なアートプロジェクトである。
「NAMURA ART MEETING」の第4 回目となった2012 年、ヤノベケンジはミラーボールの制作を実行委員会に依頼された。ミラーボールは「NAMURA ART MEETING」の第1 回目に制作され、震災後の初めての開催ということで原点回帰する意味も込められていた。ヤノベは実行委員会が依頼していたサイズを大幅に超え、国内最大級の直径5mにも及ぶ巨大ミラーボール作品《ザ・スター・アンガー》の設計・制作に取り掛かる。
《サン・チャイルド》において、「恥ずかしいほどポジティブ」な作品を作ると述べていたが、《ザ・スター・アンガー》では一見ネガティブな感情とも思える「怒り」をテーマとした。同時期に大飯発電所の再稼動を巡って、日本全国でデモが巻き起こっていた。ソーシャルネットワークで拡散された呼びかけに呼応して、総理大臣官邸前などに人々が集結し、最大数万人規模の集会が行われるようになった。
「怒り」はヤノベの継続しているテーマの一つである。2005 年、金沢21 世紀美術館で制作された《ジャイアント・トらやん》は、子ども命令にのみ従い、「怒り」のエネルギーで口から火炎を噴く巨大ロボットという設定になっている。子どもは大人が作った社会の弱者ではあるが、同時に未来を担う希望でもある。子どもや社会的弱者が持つ「怒り」のエネルギーの塊を《ジャイアント・トらやん》という形で表現し、権力構造を突き破るシンボルとした。
同様に、多数の親子が含まれた市民の「怒り」が凝結したデモのパワーは従来の原子力政策を転換させる前向きなものだと受け取ったヤノベは、ミラーボールから四方八方に光を放射しながら回転し、ボールの上で叫ぶドラゴンの彫刻をイメージした。ミラーボールからは無数の黒い角が放射状に突き出している。形状的には《ウルトラ-黒い太陽》に似ており原子力の暗喩になっている。
怒りの絶頂で吼えるドラゴンは発砲スチロールで型取りされた上に、アルミ板がリベットで締結され目玉に赤いガラス球がはめ込まれた。《ラッキードラゴン》においても使用されたこの手法は、鎌倉時代の仏像彫刻で用いられた「玉眼」を応用している。巨大ミラーボールは、内部が空洞の巨大な半球体を接合させ、表面には無数の円形の鏡が貼り付けられた。
ヤノベの作品は、動いたり火や水を使ったりする機械彫刻で知られている。しかし、この作品は台座自体が球体であり、彫刻とともに回転する珍しいタイプで、そのもの自体で動力を持って動いたり、火炎を噴いたりするものではない。ライトに反射して光を放射するものであり、外部から回転運動を与えられて動くものである。それが地面や壁面、天井に無数の光の輪を作る。
また、夜中に一番輝きを放つことから、太陽光を反射する月のようでもあり、星を生み出すプラネタリウムのようでもある。その意味でも自らが輝く《サン・チャイルド》と対照的で対となる作品だと言える。木津川沿岸にある名村造船所跡地のドック前に展示された作品は、灯台のように周辺の建物を照らし出し、対岸の工場地帯を背景にしながら眩く浮かび上がった。