(2/2) スター・アンガー [2012-2013]
「怒り」から「祝祭」へ
《スター・アンガー》は、直径5mの巨大ミラーボールから黒い角が放射状に突出し、雄叫びを上げるドラゴンが頂上に鎮座する巨大な彫刻作品である。《スター・アンガー》は、クレーンによって吊るしたり、台座をつけたりして、回転させることができ、光が当たると四方八方に反射して、空間を変容させてしまう効果がある。
2012 年、名村造船所跡地で30 年間継続されるアート・プロジェクト、「NAMURA ART MEETING ’04–’34」の4回目となるイベントで展示するために、実行委員会の依頼を受け制作された。東日本大震災、福島第一原発事故後、現実を好転させるために、「恥ずかしいほどポジティブ」な表現を志向することを決意したヤノベケンジが、《サン・チャイルド》の次に制作した作品であるが、ネガティブな感情とも思える「 怒り」 をモチーフにした。当時、深い反省と検証のない原発再稼働に反対するデモなどが起こっており、 多くの国民の「怒り」を前向きなものと受け取って形を与えた。
その後、《スター・アンガー》は、「瀬戸内国際芸術祭2013」において小豆島の坂手港の灯台跡に設置され、航海と港の新たな目印となった。神戸や高松から寄港する連絡船の甲板など、遠方からでも太陽光を反射して確認でき、夜になるとライトアップされて四方八方に光を放ち灯台のような役割を担った。
会期中には、地元住民の盆踊りが《スター・アンガー》の周囲で開催されるなど、春・夏・秋の期間を通じて、地元のシンボルとして溶け込み、会期終了後は恒久設置となった。当初は、会期の短いアート・イベントのために創られたものであるが、堅牢な作りのため台風などが来ても同じ場所に展示され続けている。「怒り」を原動力に回転していた作品は、来島者を迎えたり、住民を祝祭に誘ったりすることで、確実に現実を好転させているといえる。