(2/2) サン・チャイルド [2011-2012]
未来に向かって―立ち向かう子供たち
《サン・チャイルド》は、右手に希望を象徴する「小さな太陽」を持ち、左手にヘルメットを抱え、顔に傷があり絆創膏を貼りながらも、放射能の心配のない世界を取り戻した未来の姿を表した全長6.2mの巨大な子供像である。放射能防護服は着ているが、胸のカウンターがゼロになっていることがそれを示している。
ヤノベケンジは、東日本大震災、福島第一原発事故の前年に、元水力発電所の美術館で放射線と大洪水をテーマにしたインスタレーションを発表している。それは予知的な作品として評価されたが、同時に核に対する警鐘を鳴らし続けた自身の作品に効果がなかった事実を突きつけられることになった。そのため、シニカルで第三者的な態度ではなく、当事者として具体的に現実を好転させることのできる「恥ずかしいほどポジティブ」な表現への転換を決意した。そして、復興・再生の願いを込め、被災した人々が立ち上がるきっかけとなるような希望のモニュメント《サン・チャイルド》を構想する。
《サン・チャイルド》は2011年10月、大阪の万博記念公園で公開される。その後、3 体が創られ、東京の岡本太郎記念館、第五福竜丸展示館、モスクワ、イスラエルなど、国内外で巡回展示された。さらに、2012 年3 月にはヤノベの故郷の茨木市にある大阪モノレール・阪急南茨木駅前のロータリーに恒久設置された。茨木市の《サン・チャイルド》は被災した東北地方を向いて復興・再生を見守り続けている。
2012年8月には、「福島現代美術ビエンナーレ2012」に招聘され、ヤノベは資金難の実行委員会の負担を軽減するため、運搬費を支援者から提供を受け、《サン・チャイルド》を会場の一つであった福島空港で展示した。その際、ヤノベは約180人の支援者一人ひとりに自筆のドローイングを描いて郵送している。ヤノベは被災から1 年しか経ていない福島の住民に作品が受け入れられるか懸念していたが、展示期間が延長され、クリスマスには飾り付けがなされるなど思わぬ歓待を受け、福島から発信することの重要性に気付く機会となった。
2013年には、震災以降の世界をテーマに開催された国際芸術祭「あいちトリエナーレ2013」のメインビジュアルとして《サン・チャイルド》が展示され、その後も国内外で継続的に発表されている。ヤノベの巨大彫刻が個人的表現を超えてパブリックな存在となった記念碑的作品といえる。