(2/2) アンガー・フロム・ザ・ボトム [2013]
井戸の底から芸術の起源へ
《アンガー・フロム・ザ・ボトム(地底からの怒り)》は、古井戸を模した石垣から出てくる「化け物」のオブジェが、せり上がって頂点で水を吐き出し、降りることを繰り返す巨大な彫刻作品である。ビートたけしがテレビ番組でヤノベケンジがディレクターを務める京都芸術大学ウルトラファクトリーを訪問したことをきっかけに、2013年にヤノベと共同制作された。
たけしは、イソップ寓話の『金の斧』のパロディで、湖に斧を入れたら、斧が刺さった神様が怒って出てくる自身のコントをもとに、古井戸をモチーフにした彫刻作品を提案し、ヤノベと構想を練り上げた。ヤノベはドクロのような頭と鱗をまとったような躯体、文楽人形のような顎の機能を持った「化け物」が、せり上がって水を吐き出すという全長約8mに達する巨大彫刻を設計。重厚なステンレス製の頭部を持ち上げる機構を油圧システムによって実現した。また、古井戸の石垣を、福島の岩石の型から創った。
そして、たけしとヤノベは、ゴミなどと一緒に埋められた井戸が、自然の恩恵に対する信仰や井戸端会議などの地域コミュニティの解体、そして環境汚染の反動で自然の猛威に晒されている人類の今日の姿を象徴していることを風刺的に表現した。それは福島第一原発の地下汚染水の状況と重なることにもなった。
2013年の1月に東京都現代美術館で展示され、その後「瀬戸内国際芸術祭2013」で小豆島の洞雲山の麓の高台にある古井戸跡で展示された。小豆島は瀬戸内海式気候であるため降水量が少なく、昔から水に困窮していた歴史があり、作品は土地の記憶を想起させることにもなった。
会期中には、井戸の「化け物」が1 時間に1 回せり上がって、多くの観光客を出迎えた。その後、地元の神社の神主と巫女によって「化け物」となった神様の怒りを鎮める祭祀が行われ「ご神体」となる。
さらに、会期終了後は、地元有志団体の寄付と建築集団ドットアーキテクツの設計によって、「ご神体」の伸縮に応じて、柱も伸縮する画期的な社が創られ、水と芸能の神様を祀る「 美井戸神社」 と名付けられた。《アンガー・フロム・ザ・ボトム》は、芸術祭の作品という枠を超えて、祭りと芸術の起源に遡り、共同体と自然の再生の願いを反映する象徴的な存在となった。