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    ジャンボ・トらやん [2013]

    「希望の島」へ導く船頭


    《ジャンボ・トらやん》は、神戸・高松と小豆島を結ぶ定期連絡船ジャンボフェリーの展望デッキに設置された巨大な「トらやん」の胸像である。小豆島が初めて参加した、「瀬戸内国際芸術祭2013」に合わせて制作された。

    ヤノベケンジは、「瀬戸内国際芸術祭2013」において、小豆島全体を自分の作品を使って、壮大な物語の舞台にすることを試みた。坂手港の灯台跡に《 スター・アンガー》(2012)を、洞雲山の麓の高台の古井戸跡に、《アンガー・フロム・ザ・ボトム》を設置した他、坂手港の待合所の壁面に巨大壁画を構想し、岡村美紀が《小豆島縁起絵巻》を描いた。そして、

    《ジャンボ・トらやん》は本州・四国と小豆島の間だけではなく、物語と現実をつなぐために創られた。

    「トらやん」は2000年代のヤノベ作品の主要なキャラクターである。それは阪神タイガースファンのヤノベの父親が定年後に始めた腹話術人形に、バーコード頭にちょび髭を付けて、「虎やん」と名付け、《ミニ・アトムスーツ》(2003)を着せたことに由来している。以降、ヤノベの代弁者や媒介者としての役割を担ってきた。

    また、ヤノベは、『創世記』の「ノアの箱舟」をたびたびモチーフにしている。自身の絵本『トらやんの大冒険』にも取り入れており、展望デッキの内壁にプリントした。そして、ジャンボフェリーを「ノアの箱舟」に、小豆島を大洪水の後の「希望の大地」に見立てた。「ノアの箱舟」では、鳩がオリーブの葉をくわえて持ち帰ることで、大洪水が引いたことを知ら

    せており、オリーブで有名な小豆島は格好の舞台になった。

    小豆島は、『古事記』の「国生み」にも登場する由緒ある島だが、本州と四国の連絡橋が架けられなかったために、交通網から取り残された瀬戸内の島々の象徴的な存在でもあった。ヤノベはアートと物語の力で、日本の良い文化が保存された「希望の島」への転換を試みたといえる。

    《ジャンボ・トらやん》は、手に舵を持つタイプとオリーブの葉を持つタイプの2 体が制作され、2 隻のジャンボフェリーの展望デッキにそれぞれ設置された。そして、乗客は《ジャンボ・トらやん》の操舵で、「希望の島」である小豆島へ導かれることになった。船に取り付けるパブリックアートは珍しいが、屋外の中でも潮風などを浴びる厳しい環境の中、会期終了後も恒久設置され、ジャンボフェリーのアイコンとなっていた。

    Jumbo Torayan(Captain)
    • Jumbo Torayan(Captain)
    • ジャンボ・トらやん(船長)
    • 制作年 2013年
    • 素材 FRP、鉄、他
    • サイズ 325×430×290cm
    • 所蔵 ジャンボフェリー株式会社

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