KOMAINU-Guardian Beasts- [2019]
世界を守る守護獣
《KOMAINU―Guardian Beasts―》は、左右2 体が1 対となる「狛犬」をモチーフに、今日の地球環境の悪化、人類の分断や対立、国際紛争などから世界を守るための守護獣として制作された彫刻作品である。FRPのボディにステンレスを貼ったメタリックな意匠が施されており、21 世紀にふさわしい新しい狛犬像となった。
「狛犬」は、古代オリエントから中国や朝鮮半島を経て日本に輸入され、もともと仏や神を守る「獅子」として表されてきた。日本において、片方は角があり口を閉じた「狛犬」、片方は口を開いた「獅子」として、「阿吽」が対となった。それは龍や麒麟のような「霊獣」でもある。
ヤノベケンジは、2017年、京都市京セラ美術館のリニューアルオープンに際して行われたトークイベントで、京都市京セラ美術館前にある平安神宮の大鳥居の横に巨大狛犬を建てるプランを提案した。2019年、ヤノベは比叡山延暦寺の「 にない堂」への奉納展示を依頼され、その案を継承する。
比叡山延暦寺は、平安京を見守るように創建され、長く日本の精神文化を育んできた。特に、西塔エリアにある常行堂は阿弥陀如来を祀り、法華堂は普賢菩薩を祀っているが、合わせて「にない堂」と呼ばれており、同じ形の2棟のお堂が渡り廊下でつながる現役の修行の場である。
それらのお堂に90日間籠る修行は1000年以上続いており、ヤノベは視察時に修行僧の祈りの声を聞いて襟を正すことになる。そこで自身もウルトラファクトリーに籠り、祈りを込めて京都芸術大学の学生10名と共に対をなす守護獣《KOMAINU―Guardian Beasts―》を創り上げた。そして、それぞれのお堂の前に「狛犬」と「獅子」が奉納展示された。
2020年になり、新型コロナウイルス感染症が、世界中を席巻した。ヤノベは2020年3月末、猛威をふるう疫病が収まることを願い、京都芸術大学の正門前に、再び《KOMAINU―Guardian Beasts―》を展示した。「京の都」を一望できる瓜生山の麓の高台から人々を見守るその姿が話題となった。さらに、「福島ビエンナーレ2020」では、学生たちと共同でAR(拡張現実)の《KOMAINU―Guardian Beasts―》を制作した。そして、福島県白河市の会場で観客がスマートフォンをかざすと、作品が現れるようにした。再び現実と空想を行き来する「霊獣」となり、人々を見守る存在となったのだ。