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    SHIP’S CAT (Muse)

    世界に羽ばたく美術館の守り神

    《SHIP’S CAT(Muse)》は、2022 年に開館した黒い直方体の外観が特徴的な大阪中之島美術館と、内部に組み込まれた立体的な「パサージュ」を行き交う人々を見守るために制作された《SHIP’S CAT》シリーズの彫刻作品である。堂島川に面する美術館が世界に発信するための象徴となり、守り神になるよう願いが込められた。

    大阪中之島美術館は、大阪大学(旧・大阪帝国大学)医学部の跡地に建てられている。江戸時代には、中之島付近に蔵屋敷が立ち並び、日本中の米や特産物が集まって米取引が行われ「天下の台所」と称された。美術館は、かつて広島藩の蔵屋敷があった場所に位置し、そこには直接、入船できる「舟入」があり、厳島神社の分社があったという。また、美術館前の田蓑橋は、古代大阪にあった難波八十八島の一つで、代々祭祀が行われていた田蓑島に由来している。

    つまり、古代では「神」、近世では日本各地の「富」、近代では人々の体を治す「科学」の粋が集結していた。そして、現代においては大阪中之島美術館には、日本有数の「美術」のコレクションが集う。ヤノベケンジは、「美術」という人々の心を癒す宝を守るための猫となるよう考えた。

    世界三大博物館の一つと言われる、ロシアのエルミタージュ美術館には、ネズミから美術品を守る警備員として猫が飼われている。その役割は、「SHIP’S CAT」と変わらないといっていいだろう。そこでヤノベは、「MUSEUM’S CAT」の役割を新たに加味した。そのために胸には羽の印をつけ、《サモトラケのニケ》を想起させるエンブレムにした。《サモトラケのニケ》は、船首に降り立つ勝利の女神であり、美術彫刻の象徴でもある。

    背中にはボンベを付け、潜水艦にも宇宙船にもついていけるスーツを着ている。スーツの色は、航空や航海の安全を守る塔や橋を塗装するインターナショナルオレンジや、厳島神社の朱を表している。その姿はモノリスや宇宙船のような美術館にふさわしく、映画『2001 年宇宙の旅』を連想させる宇宙服のイメージでもある。《SHIP’S CAT(Muse)》は、美術館の北側、真北に向けて建てられ、天体の中心軸である北極星を見つめ、世界に羽ばたく美術館を発信し、人々を誘っているといえるだろう。

    SHIP'S CAT (Muse)
    • SHIP'S CAT (Muse)
    • シップス・キャット (ミューズ)
    • 制作年 2021年
    • 素材 ステンレス、FRP、アクリル、LEDライト、他
    • サイズ 350×110×240cm
    • 所蔵 大阪中之島美術館

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