風神の塔 [2015]
過ちを浄化する地霊
《風神の塔ーIitate Monster Tower》は、大地に突き刺すような胴体と、風を引き起こす袋を両手に抱え、背中には3つの風車を背負う巨大な彫刻作品である。風車は小型風力発電機となり、蓄電されたエネルギーによって、池の水を吸い上げ、定期的に吐き出される。大気と水の循環、大地の浄化の象徴として、琳派400年記念祭「PANTHEON -神々の饗宴-」において、京都府立植物園の温室前の鏡池に置かれ、「風神」の役割を担った。
もともとは、福島で計画されていた再生可能エネルギーによる地域電力会社のためのモニュメントとして構想された。放射線被曝量が多く全村民避難となった飯舘村などでも計画されており、福島発の電力会社には、東京中心のエネルギー政策の犠牲になった地域住民の悔恨と、そこから脱却して自立したエネルギー圏を築きたいという決意が表れていた。
東日本大震災以前から福島の人々と交流のあったヤノベケンジは、震災、福島第一原発事故後も地元の美術館、大学、企業などを支援する活動を続けおり親交を深めていた。そこでヤノベは、あぶくま洞の鍾乳洞「妖怪の塔」や妖怪オンボノヤスなどの福島の自然の化身と民間伝承を参考にし、原子力という人類の作り出した鬼子に立ち向かう姿として、怒りと慈愛に満ちた巨大な地霊の塔「Iitate Monster Tower」を構想する。
そして、2015 年にプロトタイプとして《風神の塔ーIitate MonsterTower》が「PANTHEON -神々の饗宴-」で発表された。対として展示された《雷神-黒い太陽》(2009–2015)は、共振変圧器「テスラコイル」を内部に備えており、放電してプラズマを発生させる。プラズマは、太陽や雷、核融合などに見られる、物質の第四の状態であり、《雷神-黒い太陽》は核のメタファーでもあった。
《風神の塔》は、 その後、 高松市美術館のヤノベケンジ展「 シネマタイズ」でも展示される。美術館内に人工池が作られ、水を汲み上げ、吐き出すことを繰り返す前代未聞の展示となった。会期中に映画撮影が行われた「シネマタイズ」では、《雷神-黒い太陽》が原子炉のセットとして使われたため、自然エネルギーを象徴した《風神の塔ーIitate Monster Tower》との対比が鮮明になった。エネルギーを巡る人類と自然の相克と調停は、未来の希望と対となるヤノベの巨大彫刻のテーマといえる。